ある日突然、目がかすんで激痛が走ったり、頭痛や吐き気で身動きが取れなくなったり……。
急性緑内障発作は脳卒中や心筋梗塞と同じように、なんの前触れもなく急激な発作が襲ってきます。
放置すると急に視力が低下し、数日で失明に至ることもある恐ろしい病気です。
今回はその発症原因や治療法を、できるだけわかりやすくご説明しましょう。

急性緑内障発作は閉塞隅角緑内障の人に起きる

急性緑内障発作が起きる可能性があるのは、「閉塞隅角緑内障」を患っている人です。
緑内障はいくつかの種類に分類されますが、そのうち閉塞隅角緑内障は、目の中を満たす房水の出口である隅角という場所が狭くなったり(狭隅角)、塞がったりすることで起きる緑内障です。



房水は、水晶体を取り囲む組織(毛様体)でつくられ、そこから水晶体と虹彩(茶色目)の間、次に虹彩と角膜(黒目)の間へと流れたあと、隅角にあるシュレム管という排水管から目の外の血管へ排出されます。
房水がスムーズに排出されなければ、目の中には房水が溜まる一方になってしまいます。
房水が溜まると、空気をパンパンに入れた風船のように目の中が膨らみ、つまり「眼圧が高い」という状態になって、目と脳をつなぐ視神経を圧迫して傷つけてしまうのです。

視神経は約100万本の神経線維が束になったもので、障害された神経線維の場所により、それにつながっている部分の視野が欠けて見えなくなります。
ひとたび欠けた視野は、現代の医学では二度と取り戻すことができません。
これが閉塞隅角緑内障のメカニズムです。

治療が遅れると徐々に視野が欠け、1週間後には失明の危険性も

閉塞隅角緑内障の人の隅角が完全に塞がったりして眼圧が急速に上昇すると、急性緑内障発作が起きて、救急治療が必要になる可能性があります。
目に激痛が走ったり、急に目がかすんで視力が低下したり、頭痛や吐き気、嘔吐などの症状があったときは非常に危険です。

特に頭痛、吐き気、嘔吐は脳疾患や心臓疾患の発作的症状と間違われやすく、眼科の治療にたどり着くのが遅くなるケースも少なくありません。
そもそも緑内障は自覚症状が現れにくいため、定期的に眼科の検査を受けていない場合、本人さえ閉塞隅角緑内障であることを知らないまま発作に襲われることが多いのです。



急性緑内障発作で眼圧が上昇した状態が続くと、圧迫を受けた視神経が障害される可能性が高まります。
放置すれば次第に視野の欠損が大きくなり、1週間ほど経ったころには失明する最悪の事態も考えられます。

ですから急性緑内障発作を起こしたときは、必ず緊急の措置を受けなくてはなりません。
けれど、それ以上に大切なことは「急性緑内障発作を起こさないよう、閉塞隅角緑内障を治療しておく」という予防対策です。
「私は閉塞隅角緑内障だ」とわかっていれば、発作が起きるのを防ぐ方法はすでにいくつも確立されているからです。

急性緑内障発作の最先端治療は、白内障手術⁉

急性緑内障発作の予防方法を説明する前に、実際に発作が起きてしまったときの治療方法も紹介しておきましょう。
かつてはレーザー治療(レーザーで虹彩の周辺部に穴を開けて房水の通り道にする)が緊急の治療法として推奨されていましたが、現在は白内障手術を行うケースが増えています。
多くの方では、白内障の進行が閉塞隅角の一因となっているからです。

「緑内障なのに、白内障手術?」と不思議に思われるかもしれません。
この場合の白内障手術は「白内障手術の手法=水晶体再建術」という意味で、簡単にいうと、角膜(黒目)に小さな切開部(創口)をつくって水晶体を取り出し、代わりに人工の眼内レンズを入れる手術です。
通常は、白内障にかかって白く濁った水晶体を眼内レンズに替えるのが白内障治療としての白内障手術ですが、急性緑内障発作の治療の場合は、白内障が比較的軽くても水晶体を取り除きます。
水晶体の厚さは、成人の標準で約4mm。眼内レンズの厚さは、ごくごく薄いため、目の中のスペースに余裕が生じて眼圧を抑えることができるのです。

「緑内障+白内障」を一度の手術で治療するメリット

閉塞隅角緑内障はこうした急性緑内障発作の危険を回避するため、隅角を広げて房水を排出しやすくする治療が重要です。
実は閉塞隅角緑内障の人は、眼科以外の病気の治療で使っている内服薬や注射、手術などによって眼圧がさらに上昇する可能性もあります。
できるだけ早く治療を開始して、急性緑内障発作の不安を遠ざけておくことをお勧めします。

開放であっても、数年で閉塞になることもあり、発症初期の段階では目薬を使って眼圧を下げますが、それでも視野の欠損が進行するような場合はレーザー治療や手術治療を行い、閉塞部分の切開、それに代わる房水の通り道の形成などで眼圧が上昇する原因を改善します(緑内障のレーザー治療や手術治療の種類はこちら)。

なかでも白内障を併発している人の場合、閉塞が生じる前であれば緑内障と白内障を同時に治療できる手術があります。
「iStent injectW(アイステント インジェクト ダブリュー)」というデバイスを使用する「低侵襲緑内障手術」です。

iStent injectWは医療用チタンでできた緑内障手術専用のインプラントです。
長さ360㎛(マイクロメートル…1㎛=1000分の1mm)という小ささで、人体に挿入する医療機器のなかでは最小サイズを記録しています。
このiStent injectWを隅角の線維柱帯と呼ばれる部分に挿入して留置すると、シュレム管から排出される房水の流れがスムーズになります。
その結果、眼圧が低下して、緑内障の進行を抑制するという仕組みです。
持続的に眼圧を下げられるため、それまで処方されていた目薬の量や種類が減ったり、目薬がまったく不要になって、毎日の煩わしい習慣から解放される方もいらっしゃいます。

低侵襲緑内障手術は、一般的な白内障手術とほぼ同じ工程で行います。
白内障手術は前述のように、角膜に小さな切開部(創口)をつくり、そこから水晶体を取り出して代わりの眼内レンズを挿入します。
iStent injectWは同じ切開部から挿入することができ、手術時間も白内障手術の5~10分に2~3分プラスするだけという短時間です。
切開部や手術時間が少なければ、患者さんの手術中の肉体的・精神的な負担も少なくて済みます。

白内障が発症した水晶体は白く濁るだけでなく、正常時より硬くなって厚みも増しています。閉塞が強まって房水が流れにくくなるかもしれません。
そのような水晶体を白内障手術で眼内レンズに替えれば房水の流れるスペースは広くなります。
iStent injectWを挿入すれば房水の排出自体が改善されますので、二重の意味で眼圧の上昇を防御することができるのです。

iStent injectWを日本で使用できるようになったのは2020年10月からですが、私はそれまでも従来型のiStentを多くの緑内障手術に使用してきました。
安全性・有用性に優れた画期的な治療法であることは熟知しているつもりです。
閉塞隅角緑内障と白内障を併発している方は、両方を一度に治療できる低侵襲緑内障手術を検討されてみてはいかがでしょうか。

まとめ

◆急性緑内障発作はある日突然、閉塞隅角緑内障の人を襲う視覚機能の危機!
◆目の激痛・かすみ・視力低下、頭痛、吐き気を感じたら、ただちに眼科の受診を。
◆発作後のみならず発作前の治療は、安全かつ広く普及した白内障手術を行うことが増えている。
◆閉塞隅角緑内障に至るまえの白内障を併発している人は、iStent injectWを使用した低侵襲緑内障手術などの手術治療で急性緑内障発作の危険を回避できる。

目の健康を保つには、設備の整った眼科での定期的なケアが重要です。かすんでみえるなどの自覚症状が少なくても、お元気なうちに白内障手術をすることで、急性緑内障発作でみえなくなることも防止できるのです。

閉塞緑内障の多くは、白内障の進行によって発症しますが、眼外傷やチン小帯断裂などが原因となっていることもあります。放置すると、難病例になりやすいので注意してください。